相変わらずで ごめんあそばせvv
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


GWはお初なスカイツリーに、
開園30周年に沸くネズミーにという、
国内の注目スポットから、
海外行くなら まだ何とか円高だよといった、
お出掛けするのをお勧めとするよな話題もたんとあったが。
その一方で、
海外では鳥インフル、国内でも風疹への脅威というのもなくはなく。
何より、行楽に一番重要なお日和的にも、
この時期に雪まで降ったほど、
随分とすったもんだだったGWも何とか過去のこととして落ち着いて。
若葉だった新緑が、どんどんとその濃さを増してく、
本格的に爽やかな初夏が訪れつつある今日この頃。
木洩れ陽も少しずつ強くなりつつあるが、
まだまだ木陰を渡る風は心地よくって。
小汗もかくが、

 「そうですよね、せっかく気持ちのいい季節だってのに。」
 「なんでまた、
  こうやって机に齧りついてなきゃいけないのかしらね。」

五月祭も無事に開催され、
そのままなだれ込んだGWの後半は、
三木さんのお宅の箱根の別邸へのお招きを受けて。
初日はちょこっと重ね着しなきゃならなんだが、
なんの、子供の日には盛り返したお日和の中、
木立の中を散策したり、湖にボートを浮かべて遊んだり。
そりゃあ爽快なバカンスを過ごしたお嬢様がたなものだから、
余計に…教科書三昧の昨日今日が窮屈でならぬ。

 「授業は義務ですもの、甘んじて受けますが。」
 「なんでこうも試験が立て続きますかねぇ。」

そう、立て続くというのが憂鬱でしょうがない。
いわゆる“定期的”な中間考査は六月の頭なのだが、
その前にあたろう来週の頭に“実力テスト”というのが挟まっており。
実力とやらを問うのだと、試験範囲はあって無いようなもの。
しかも学科によっては
教科書を元に作成される種のものじゃあない問題文も多々あるがため、

 「英語でお初の文章が出て来たら、もうもうお手上げですよぉ。」
 「こっちは古文でそれをやられると…。」
 「〜〜〜。(頷、頷)」

ホントはいけない、学校帰りの途中での寄り道、
甘味処“八百萬屋”の奥向き、住居エリアのお茶の間にて。
コタツをしまったその後へ、引っ張り出され直した卓袱台にて、
スナック菓子と それから教科書も一応広げてはいたものの、
範囲の掴みどころのなさに絶望しちゃあ、討ち死によろしくパタリと倒れ付す、
女学園での人気者筆頭、三華様がただったりし。
それぞれに、
剣道部での活躍やらバレエ団での脚光、
はたまた近在の大学から招聘が掛かる秀才という身なところ、
個性あふるる美人さんな風貌と共に、
素晴らしいと誉めそやされちゃあいるけれど。

 ―― 勉強ってのはやっぱり
   基本的に苦手、であるらしく。

工学系では水を得た魚と化す平八も、
実は数学や物理の計算関係は微妙に苦手だそうで。
機巧への設計図やコンピュータプログラムへは、

 『絶対音感みたいなもんで、
  パッと見で“ここが変”とか判るんですよね。』

 『…そういうもんなの?』

本人曰く、そういうもの なのだとか。
片や、

 「久蔵殿こそ、古文は何とか日本語じゃないですか。」

その風貌の綺羅らかさを大きく裏切ってのこと、
実は日本で生まれて育った金髪娘二人だというに。
そこだけはお揃いじゃあないものか、
片やは英語より古典の方が大の苦手という態度を見せたのへ、
米の国から来たひなげしさんが怪訝そうに訊いたれば、

 「〜〜〜〜。(否、否)」

すそに向かうほど柔らかなくせがカールとなるのか、
大きくかぶりを振れば、
その所作に合わせてエアリーな金の綿毛がふわふわ揺れて。
日頃の鋭角的な雰囲気もどこへやらという風情になってしまわれる、
紅ばら様こと久蔵さんが言うことにゃ。(言う?)

 「現代語じゃないなら外国語も同じ?
  まあ確かに そうかもでげすが…。」

 「……もう慣れましたが、
  今のでそんな詳細までよく通じてますよねぇ。」

真ん丸い卓袱台の一角、
お外のあまりの目映い明るさとの拮抗で、
影絵のようになった二人の美少女が向かい合い。
ただただお眸々を見交わすだけで、
ほとんど声さえ出てはないというに。
どういうことですか?とのぞき込んだ白百合さんへ、
懐ろへ掻い込まれたまま、
すがるように見上げて来た双眸の張りようを、
微妙に弱めたり強めたりしただけの久蔵だったのであり。
そんなじわわ〜〜っとした差でよく通じるなぁと平八が感心すれば、

 「勘ですよ、勘vv」

苦もないことよと あっさりと応じた七郎次であり。
それを聞いて、

 「………vv///////」

珍しくもそれと判るほど、
うわぁ嬉しいとの喜色を滲ませた、愛らしい口元ほころばせての。
おっ母様…もとえ、白百合様へぎゅうと抱き着く紅ばら様だったが。

  ちょおっと落ち着いてくださいませ

確かに洞察の妙には違いないし、
どんだけ理解や把握があるかということじゃああるが。

  下手すると犬猫と同じ扱いだぞ それ……と、

 “誰か 突っ込んでくれないかしらねぇ。”

さすがにそこまで毒のある物言いをしてしまうと
せっかくの友情に取り返しのつかないひびが入るのじゃあなかろかと。
強気の彼女には珍しくも そこのところを危ぶんでのこと、
ついつい他力本願してしまう ひなげし様だったのはともかくとして。(笑)
卓袱台の上には、小じゃれたプチパイやケーキや生和菓子などじゃあなく、
ボール紙の箱やパーティーパックと印刷された袋詰めの、
コンビニなどでお馴染みなスナック菓子が散乱しており、

 じゃがびぃ大好きvv
 さっぽろポテトも鉄板ですよね、
 なんの手綱あられでしょう…と、

お喋りのお供よろしく、愛らしい手が次々伸びてる辺り。
そこだけ見る限りじゃあ、
一般の女子高生と変わらない屈託のなさであり。
この中に、日本屈指の大ホテルオーナーのお嬢様と、
日本画の権威の一人娘、世界に名だたる工学博士の孫がいると、
一体 誰が想定出来ようかというざっかけのなさだが、

  決して がさつさを隠す種の“猫かぶり”を
  普段から心掛けているからじゃあなくて

蝶よ花よと、何不自由なく育てられたには間違いないものの、
つい最近思い出してしまった とある記憶のこれも影響か。
世の中には 丹精込めて作られたハンド・ツゥ・ハンドな逸品お菓子の他にも、
手軽に手に入る美味しいものがたんとあると あっさり嗅ぎ付けてのこと。
駄菓子やコンビニ菓子も好き好き、
街角で売っているクレープやアイスも
平気で立ち食べしちゃうというフリーダムさを発揮中だったりし。
それはともかく、

 「そういえば、久蔵殿ってば、
  英文法はいつも五指に入る成績ですものね。」

こちらの紅眼のお嬢さん、
会話はまだまだ覚束ないものの、英文法の成績はいい。
何でも幼いころから海外の絵本もたんと手元にあったので、
様々な日常単語にも馴染みは深いらしく。
そんなお陰様、文字通りの“読み書き”だけでいいのなら、
どうかすると平八より席次もいい方だったりし。
それで、

 「古文は日本語とは言い難し、ですか。」

でもでも、
仮名と漢字ですもの、読めるだけマシじゃないですかと、
古典は得意という七郎次が、
“う〜ん”と同意しづらそうなお顔になったのへ、

 「シチさんこそ、お初の英文と言ったって、
  せいぜいどっかの時事ネタか有名な小説の一説ですのに、
  お手上げは大仰では?」

先生方だって、
とんでもなく馴染みのない文章は持って来ないですようと。
挑戦もしないでのシャットアウト状態を
ひなげしさんが何とか励まそうとしたものの、

 「その見極めが、まず出来ないんですったら。」

スティックタイプのチョコがけプレッツェルを
おちょぼ口の先で かりかりかり…と超高速で齧りつつ。
せめてのヒントに表題だけでも日本語で書いててくんないかな、
クイズじゃないんだから そんな試験なんてありませんて、と。
ただの傍観者だったなら、
ちょっとしたお芝居みたいなやりとりが 聞いてて楽しい、(こらこら)
どこかお暢気なお嬢様がたのお勉強会であり。
教科書が参考にならぬ文系にはヤマの張りようがないとはいえ、
理系や社会科は習ったことしか浚わぬだろからと、
地学と日本史、地理は、
四月中に学んだ範囲だけをがっつり暗記だと、
勇んで構える 三華様がただったれど。

 「地学かぁ〜〜。」
 「生産地ランキング……。」
 「アメリカの歴史ならまだしも…。」

もしかしなくとも、
基本、お勉強とは相性が悪いお年頃なんだろうね、うんうん。
勇んでの沸いては萎み、
何のと腕まくりしちゃあ、難解な堅い壁におおうと怯む。
日頃はあれほど、
そう、おっかない悪漢へも果敢に突っ込んでゆけるというに、
勉強相手じゃコレだもの、

 「落ち着きのない折は、
  問題集の2、3冊でも課せば善しということかの。」

集中したいらしいのに、
その身がついつい斜めになっているお嬢さんたちなのを。
今日ばかりは微笑ましいとの苦笑混じりで中庭越しに眺めやり、
五郎兵衛殿が淹れた特製ブレンドコーヒーを、
しみじみと味わっておいでなのは。
年齢を感じさせない屈強な肢体へまとったスーツも様になり、
お背
(おせな)まで延ばした蓬髪に顎髭というのがまた、
ワイルドなんだか、いやいや ひとくせありげだぞという怪しさの、
判じ物みたいな風貌も相変わらずの 壮年警部補殿であり。

 「お気持ちは判るがな。
  それはあの子らには色々と酷なことぞ?」

こちらからすりゃ その身が危ないと案じてのこととはいえ、
大人しくさせる奥の手として、
ぐうの音も出ぬほどの苦手をお札代わりにあてがうとは。
そういう方向からの子供扱いは、
それこそ気持ちの逃げようがなくて酷だぞよと、
ようよう焼けた肌も精悍な、
こちらの店主殿がやれやれという苦笑をこぼす。
何しろ向こうの少女ら、実年齢こそまだ十代だが、
その記憶には、
苛酷な戦さをくぐり抜けた生々しいまでの“前世”の記憶が、
しかも蘇ったばかりゆえ。
物事への把握や コトの流れの行き着く先への推量に、
大人の達観だとか、蓄積あっての見越しとか、
ちゃんと織り込める子らでもあって。
情熱や熱意や一生懸命だけじゃあ達成されないこともあると
しっかり判っておいでなだけに、

 でもでも、じゃあ大人としての下敷きがあれば手が届くのかも、と

それでのこと、ついつい動き出してしまうのだろう…というの、
それこそ こちらの保護者らにも重々伝わってはいるのだが。

 「困ったことには、
  その身がか弱い少女らだという自覚が薄くなっておるからの。」
 「いかにも。」

頭を抱えたいらしい勘兵衛へ、
こちらは苦笑で留どめた五郎兵衛だが、
つまりはそこに尽きるのだ。
どうにかしたいとじりじりするのも、
若さゆえのジレンマだと気づかぬほどに、
今度はその身の非力さをうっかり失念している、
若しくは、今の身の上の反射や体力でも何とかなろうと
過信している節が、大人らには心配なのであり。
嫌われようが煙たがられようが構うかと、
日ごろ以上の渋面を作った勘兵衛だったのだが、

 「…で? わざわざのお越しというのは、一体どのような用件かの?」

そんな彼女らが通う女学園とは、向こう三軒隣り組。
今日がそうであったよに、七郎次との鉢合わせという可能性も相当に高い場所へ、
彼自身がわざわざ足を運んだなんて。
まずは女学園がらみの話に違いないとして、

 「急ぐ話であるらしいが。」
 「うむ。」

盆も正月もない警察官の中でも、
シフトがカレンダー通りに行かぬ…という当番制の話じゃなく、
手が足りなくての休みなし、
忙殺されている部署の筆頭というお立場の彼であり。
だからこそ、こんな平日の昼下がりに その身が空くとは思えない。
事情も通じている間柄という、佐伯刑事が同行していないのは、
別の案件にかかっておいでだからだろうか。
だとすれば、

 「正式な届けがあったとか、立件したとかいう事案ではないと?」

彼の所属は、警視庁捜査一課の強行班。
殺人や傷害事件と、そこへ至る切っ掛けとなろう強行窃盗、
つまりは強盗などが捜査対象であり。
時間が掛かれば掛かるだけ、
犯人も証拠も 距離的・時間的に逃げ果せてしまう恐れが大きいがため。
一旦 手をかけると、
立ち止まってる暇なぞ無いぞという、
時間との戦いになる種のものが大半なのは頷けもする。
と、なると…。

 「未だコトは起きてはないが、
  物騒な事態へ発展しそうな気配があると?」

 「そんなところかの。」

コトが起きてからしか動けないのが基本じゃああるが、
防犯の思想だって当然大切だし、
予兆があるなら注意警戒するに越したことはなく。
しかも…わざわざ此処へ来た彼だということは、
話の舞台は もしかして。

 「大事にならねばそれで善し。
  だがの、
  潜入不可能、鉄の壁に守られし
  聖なる花園であるはずなところから、
  巧妙な手口にて持ち出したとしか思えぬものが、
  ネット上で売買されているとあってはな。」

おやおや、穏やかならないことには違いないと。
五郎兵衛さんも、ここに来てその雄々しい眉をひそめ、
頼もしいまでに男臭いその表情、殊更に引き締めたのである。






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  *またぞろ何かしらきな臭い気配でしょうか?
   勘兵衛様、お嬢さんたちに気づかれたくはないのでしょうが、
   さりとて、他の課員をやるのも落ち着けないのでしょうね。


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